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2010年7月 7日 (水)

「東宝特撮映画DVDコレクション」第21弾 「大怪獣バラン」 アメリカナイズされたジャパニーズ・モンスター

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子供の頃一度だけTVで観た「大怪獣バラン」。以来、ゴジラ系とは違う不思議な印象をずっと持っていました。完全な単発ものですし地味で泥臭いのに、なにか独特の雰囲気があって、それを確認したくて非常に気になっていた映画なんですね。

  
  

今号の記事で初めて知ったのですが、この「大怪獣バラン」(昭和33年作品)は、アメリカのTV番組用に企画されたものを、途中から劇場用に転用したそうです。その際、白黒とはいえ初のワイド画面に変更されたそうです。コンセプトは、アメリカで50年代に流行ったモンスタームービー(「原子怪獣現わる」のような)ブームにのって、「日本製」怪獣映画を、アメリカに売り込むことがもともとの目的だったそうです。

  
  

すでに「ゴジラ」を初め、日本製(東宝製)怪獣映画は次々に全米公開されて好評を得ており、一部追加シーンや編集で現地向けの味付けにしていたわけですが、本作は初めから北米市場向けですので、どうもはなっから現地の嗜好を骨格にした筋立てにしようとしたふしがあります。

  
  

この映画は、設定自体は当時の日本の文化的・民族的状況をしっかりと取り込んで背景にしていますので、表面上は非常に「日本的」な映画といえます。昭和30年代初頭の風俗の描写は今観ても非常に興味深いです。ところが、特に前半は当時の日本といってもちょっと特殊な状況設定で、要は東北の山奥の「日本のチベット」と呼ばれている秘境の山村が舞台になります。ここで繰り広げられる光景は、最初の「キングコング」の焼き直しともいえるものですが、もう少し時代が下がれば差別ギリギリの表現ともいえる人外境として描かれています。村人のかぶる「バラダギ様」のお面のデザインは、なまはげ風にも見えますが、どちらかといえば東南アジアかニューギニア風、要はこれも「キングコング」です。

  
  

つまり、一見日本なんですが、その実は「アメリカ人からみた日本」なんですね、どうやら。このあたりが、アメリカ向けTV作品としての生まれを強く表現しているようにおもいます。

  
  

そう考えると、いろいろな事がそこにつながってゆく気がします。まず何よりバランの造形ですが、既に世に出ていた「ゴジラ」や「ラドン」よりも、基本デザインは恐竜のスタンダードなイメージに近いとおもいます。四足歩行ですしね。このあたり、「キングコング」や「ロストワールド」、「原子怪獣現わる」などに出てきた恐竜もしくは恐竜ベースのモンスターをおもいだすと、当時のアメリカの好みがリアル恐竜系だったのではないか、バランはそれにあわせたのではないか、という気がしてきます。

  
  

そして、そういうアメリカナイズされた嗜好が基本にあると考えると、子供の頃から持っていた独特の「違和感」も、いくらか説明がつく気がします。

  
  

そのポイントは、なによりも「人力」によって退治されることですね。自分が持っていた、そして今でも持っている「怪獣」のイメージには、決して人間には倒せない存在である、ということが含まれますし、重要なポイントです。それは、なにより日本の怪獣のルーツである「ゴジラ」が規定したルールであり、現代まで脈々と受け継がれているとおもいます。それを倒す事が出来るのは、自然の猛威(怒り)か、超常の力を持つ存在。前者は例えば「ラドン」での阿蘇山噴火ですし、後者はもちろんウルトラマンですね。では「オキシジェン・デストロイヤ」は武器ではないかというわけですが、いやいや、あれはいわば封印のお札、神の剣。いけにえの尊い命と引き換えの、科学を超えた超常の技と考えたほうがしっくりきます。

  
  

ところがアメリカン・モンスターのほとんどは、「人智」と「勇気」と「通常兵器」によって葬られてしまいます。「キングコング」しかり、「原子怪獣」しかりね。甚だしいのはハリウッド版「ゴジラ」で、当時の日本のゴジラファンは、ミサイルで成仏するようなイグアナに大きな落胆をしたわけです。
  
  
  
バランの最後は、まさにアメリカ流と言えるとおもいます。主人公の勇敢な行為はヒロイズムを刺激しますし、強力火薬を使う最後の作戦はまさに人間の知恵と科学の勝利です。「人間は(=アメリカは)偉い!何よりも強い!」というわけですね。それ以外でも、ややグラマー系のヒロインや、徹底した自衛隊の作戦行動の描写なども、当時のアメリカの戦争映画や女優のトレンドを感じるところです。  

  
 

「大怪獣バラン」は、白黒画面のおかげでなかなか雰囲気がある映画ですし、特撮もよく、かなり迫力もあって、今でも十分に見ごたえがあります。まるで怪獣映画の教科書を見ているような、しっかりしたストーリー展開も魅力です。ただ、秘境の土俗信仰をモチーフにしている割には肝心の神秘性がどことなく不足しているように感じるのも事実です。そのあたりが「ゴジラ」との違い。背負っているものの重さの差なのかもしれません。アメリカの、それもTV向けでは、核だ核だと言えなかったのでしょうしね。そして、このなかなか良く出来た怪獣映画がもう一つメジャーになれないのは、自分が昔感じたような違和感を、ゴジラに親しんだ日本の特撮ファンが、それぞれどことなく感じているためなのかもしれません。

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