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2010年6月12日 (土)

「東宝特撮映画DVDコレクション」第19弾 「妖星ゴラス」 これぞ本物の空想科学映画!

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「We did it?(成功か?)」「We did it!(大成功だ!)」 そして科学は勝利し、地球と人類は救われます。科学が素晴らしい未来を約束していた時代の作品。日本の映画はまだ大人の「品格」を持っていました。この「妖星ゴラス」は、数ある東宝特撮映画の中でも恐らく唯一無二の発想力をもった、真の「空想科学映画」の傑作と言って良いとおもいます。

  
  

いわゆる「惑星や隕石が地球にぶつかるぞ系」のSF作品は、古くから数多く作られてきたようです。Wikiを紐解くと、1951年の「地球最後の日」という作品あたりから、「メテオ」、「アルマゲドン」、「ディープ・インパクト」など、手変え品変え作り続けられてきました。これらは天変地異の描写がかなめですから、特撮やCGの最先端技術をつぎ込んで、阿鼻叫喚の地獄絵図を表現する迫力ある画面作りを競ってきたわけですね。そういう意味では、「日本沈没」や「2012」も同類かも。

  
  

ところがこの「妖星ゴラス」は、それらとは少しばかり視点が違うようです。ラスト近くでの大津波や大陥没のシーンはもちろんありますし、ストーリーに緊張感は与えてくれますが、それが主題というわけではありません。また、主人公たちは各々人智を尽くして立ち向かいますが、かといって「アルマゲドン」の誰かさんたちのような、超人的な活躍をするヒーローではありません。

 
  

ではこの映画の主題は何かといえば、単純な「パニックスペクタル」でも「ヒロイズム」でもない、地球規模のヒューマニズム、科学を軸にした「地球家族」への呼びかけではないかとおもいます。それは現代の世相から見ると、なんとも能天気というか楽天的な「人類みな兄弟」に感じます。しかし当時の世界情勢、つまりまさに東西冷戦の真っ只中、その最前線に位置する島国の立場、そして戦後17年が過ぎ、敗戦国にして唯一の核被爆国であるわが国に、キューバ危機という新たな核の脅威が迫り来ることを考えると、この祈りにも似た「平和主義」と、核の平和利用、そしてすべての人類を分けへだてなく救おうというコンセプトの真の意味とその「重み」が、なんとなく見えてくる気がします。

  
  

「地球最後の日」は、一部の人間が破壊される地球を逃げ出す話だそうで、ある意味現実的な選択なのでしょうが、見方を変えれば「選民主義」の象徴と言えない事もありません。「アルマゲドン」や「メテオ」は、人間の力で隕石を破壊するパターンで、なんでも「力」で解決できるんだという、「人間万能」とか「大国的」な思い上がりが背景にあるとも言えるでしょう。それに対して「ゴラス」が選んだ解決策は、自然の驚異を力でねじ伏せるのではなく、すべての人類が力を合わせて地球を動かし惑星から「逃げる」という、発想のスタートからまったく異なるものです。「何も傷つけない解決策」。それこそが、当時の世界情勢を背景にした、極めて日本的な発想であったのではないかとおもいます

  
  

これを実現するための手段はまさに奇想天外、とてもありえないようなものです。それを笑うのは簡単ですが、では地球を脱出して新天地まで行き着く宇宙船の建造や、スペースシャトルや核爆弾で巨大な隕石や惑星を吹っ飛ばす作戦は、どれだけ「現実的」で理にかなっているのでしょう?しょせんどのお話も空想科学。サイエンスフィクションは、どこまでいってもフィクションであり、どうせありえる話ではないのです。そう考えたとき、ここで描かれた「南極計画」の発想力の豊かさ、そのスケールの大きさは、やはり正当に評価されるべきだとおもいますね。

  
  

特撮技術については、当時の東宝/円谷特撮のすべてをつぎ込んだといえる素晴らしさだと思います。ミニチュアワークとしては究極レベルの一つでしょう。むろん、パニックスペクタクルの価値基準が「リアルなビジュアル表現」だとすれば約50年前のこれは、現代のCGに比べれば数段見劣りします。厳しく言えば、特に重量感の表現の追及が弱い点は東宝特撮の弱点とおもいます。それでも、この作りこみは素晴らしい。世界観さえ受け入れて映画に入り込めれば多少のアラは気になりませんし、それだけのものがあるとおもいます。

  
  

この映画のもう一つの美点は、「品格」のある演出と演技でしょう。出演者それぞれの演技は、数ある東宝特撮作品の中でも、おそらくトップレベルの素晴らしさだとおもいます。「隼号」艇長の田崎潤さんは、あの「海底軍艦」の神宮寺大佐に勝るとも劣らない重厚な演技を見せてくれますし、上原謙さん、志村喬さんも名優らしい見事な表現力で楽しませてくれます。そして女優陣が素晴らしい!水野久美さんは彼女の特撮系出演作の中でも最高に魅力的に感じましたし、白川由美さんの演じたお嬢様は、まさに「良家のご令嬢」とはこういうものだ!という「品格」さえ感じる上品な名演でした。

  
  

それらは例えば現代の映画やドラマに良くあるような、「リアリズム」という名の「迫真の演技」とはまったく違うもので、見方によっては淡白というか、あっさりしたものでしかないようにも感じます。しかし逆に、この抑えた演技演出があればこそ、映画全体の重厚な流れやリズムが見えてきます。また、困難に立ち向かう人々の内面の強さが、逆に滲み出してきている気もします。

 
 

そしてその抑えた、しかし内に秘めた人間の強さを感じさせる演技と演出は、この映画の背骨にさえなっているとおもいます。現代風の「リアリズム」演出では、「こういうときは人の行動はこうなるはずだ」という視点にたって強調気味に演技をつけているとおもいます。それに対してこの映画は、「こういうときこそ人間はこうであってほしい!」という、尊厳ある行動への「期待」や「願い」のようなものを表現する、そんな演出の考えではないかとおもいます。そう考えれば、例えばもうすぐゴラスが衝突というのにのんきにお正月を楽しんでいる場面がありましたが、こういう設定も何となく理解できます。 人事を尽くして天命を待つ、という、そういう人間の強さに期待する演出が、この映画に感じる大人の「品格」を支えているのかなとおもいます。

  
 

TV放映では、小学生の頃から恐らく数回は見ています。東宝の作品群の中でもとりわけ印象が強く、お気に入りの作品でありました。大作ではありますがある意味地味な印象もあるこの映画、どうしてお気に入りなのか自分でも理由が分からなかったのですが、今回のDVDで、その壮大かつ深いテーマ性と、品格のある作品作りによるところであると理解できました。奇想天外さから、「ツッコミどころ満載」系の評価を受けがちなこの作品ですが、その実は、表現とテーマに一本筋の通った、東宝屈指の骨太の名作である、とおもいます。

  
  
  
  

冒頭の「We did it?(成功か?)」「We did it!(大成功だ!)」は、主人公の池辺良さんが、ゴラスの通過を確認して同僚と交わした会話です。科学が未来を切り開くと信じていた、ポジティブな時代の象徴的なセリフと言えますが、同時に、不安定な世界情勢の中で平和を願う、切ない祈りがこめられていたんだなとも、今は感じています。

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